テルメアの巫女の頌 ~ Song post of Thelamare. ~
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TITLE:
テルメアの巫女の頌
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~ Song post of Thelamare. ~
Written by BlueCat
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ウィルセア孿星のひとつ、ヴィルト(ヴィルト=ザン・ノア・ウィルセア)の輪が大地に広く淡い光を投影している。
ヴィルトの環は大きく、そのためペヌグ=サ恒星の光を受けたそれは、薄紅に大地を染める。
ラド=ラ=ノルツ渓祷台に続く細い渓砂台地を、ミルサは静かに歩いていた。
「もあもあ」と都市の人々に呼ばれている浮遊胞嚢種のひとつ、テプテ=ス・テルロンたちが、ふわふわと漂いながら触腕をたなびかせている。
このあたりの風化した台地には、この渓祷台の頂にある燭祷祠と、ミルサを含めたわずか数人の巫女たちが暮らす穿洞祠官堂くらいしか人工的なものは見当たらない。
見渡す限り乾いた台地と深い渓谷の底に堆積した砂が覆っていて、伝説に聞くのみの「セデレス神の浸蝕」の時代が終わったとされる今でも、滅多なことでこんな場所にはやって来る人はいない。
生まれたときからテルメアの蝕に就くことが決まっていたミルサにとって、しかしここは、とくに寂しい場所でもなければ、世界の果てのような場所でもない。
ミルサにとっては、ここが生まれた土地であり、また砂に還る場所でもあり、そして日々を送る場所でもある。
物心つく前からこの地で暮らすことになったミルサにとっては、ここより他に知る場所などなかった。
ミルサのほんの10数メートル先には、ミルサの背丈の3倍ほどもあるもあもあが漂っているが、もあもあたちは特に他の生命に害を為すことはない。ためにミルサも気に留めない。
ミルサの肌も、装衣も、もあもあも、台地も渓砂谷も砂も、すべてが薄紅に染まっている。
燭祷祠だけが、そこに紺碧の石質を露わにしていて、それは薄紅の空の下では茶がかった暗い色に見えた。
燭祷祠に着くと、ミルサはいつものように燭祷祠やその燭祷台の掃除をする。
ほとんど風など吹かなくなったこの地でも、わずかな気流はあり、あるいはもあもあが運ぶのだろうか、砂がきらきらとペゼタ石を浮かび上がらせている。
ゼノ=ル・トの羽根箒を両手で抱えるようにして、ミルサは無言で砂を払う。
蝕の沙務のうち、祓浄の沙にあたっては、一切の綬歌も歌ってはいけないことになっている。
燭祷祠はさほど大きなものではないが、祓浄の沙をきちんと終えるまでには結構な時間がかかる。
蝕の沙務に就くテルメアの巫女たちはしかし、当然のように無言のまま、沙務を結う。
祓浄が終わると、ミルサは静かな面持ちのまま、しばらくもあもあを眺める。
今日の綬歌(もしくは呪歌)は何にしようか、何にすべきか、それを考えているように見えなくもない。
もあもあを眺め、遙か遠くまでつづく渓砂谷を眺め、ウィルセアを(今日はヴィルトの輪が天空の半分ほどを覆っているだけだが)眺める。
それからミルサは燭祷祠の半地下にある倉堂の扉を開き、背をかがめて中に入り、いくつかの道具を持って燭祷台に戻る。
ミルサは「セデトの頌」を口ずさむ。
それは我々がもし耳にすることができたならば、優しく、懐かしい感情を覚えるだろうメロディによって構成されている。
セデトの頌を口ずさみながら、彼女はまず燭祷台の裏手にある歯噛を操作し、最初に台座部にある径口を開いてそこに燭油を注ぎ、燭の温度や色、幅や高さを決まった手順で操作して燭の変化を確認し、最期に歯噛そのものに対しての祷結を結う。
道具類を再び倉堂に片付けて、ミルサは燭祷台の正面に立ち、それからひざまずく。
そのあと長い時間をかけて「エゾルテ蝕の水色」を祷頌し、「豊廓のリューウィンへ」へと繋ぎ、最後に「ゲルゼ=ダロンの赦末」と「ヘナセ・ロアに至る」を掛け合わせた祷頌を結んだ。
穿洞祠官堂に続く細い渓砂台地をゆっくり歩きながら、ミルサはもあもあたちがみな、ひとつの定まった方向に、ゆっくりと動いていることを知る。
胞散の季節はまだ終わりではないから、これはあまりないことだとミルサは感じる。
けれども、その意味をミルサは知らない。考える術もない。
風がこの地に訪れようなど、ミルサには想像もつかない。
だからいつもの通り、彼女は「浸蝕の時代が再び訪れることのありませんように」と祈りを込めて再び祷頌を口ずさむ。
もあもあたちの胞散のこの時季、矮星となったペヌグ=サは一切この大地に光を注がない。
ヴィルトの輪によって薄紅にすべてが染まる風景の中、ミルサの声だけが渓砂谷に反響し、呼応するようにもあもあたちが漂ってゆく。
ミルサに限らずテルメアの巫女は多くは表情を浮かべない(これは感情らしい感情を彼女たちが持たないためだ)が、もし仮に我々が目にすることがあれば、その相貌には慈しみに似た微笑を覚えるだろう。
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